第十五回 誰しもが持っている気持ち

一人だけ燃え続けることは容易ではなかった。

周りのマイナスオーラは容赦なく彼のプラスをかき消す。

それでも彼は自分が燃えることで変わる未来を信じていた。

高いモチベーションを維持し続け、いつか周りの人にも熱さが伝染することを。

明日を変える為には、今日を変えなければいけないことを。

 

自分の熱さを人にも伝える努力をしようと彼は大きく分けて2つのことを考えた。

「社内施策」と「社外施策」だ。

「社内施策」については、会社がいま何に力を入れようとしているかを社員に向けて示すこと。

つまり現状把握と方向性の共有化だ。

まず【会社がイクラ加工場を企業買収し、自社内で製販一体の流れを構築しようとしている現状】を把握していない社員が大多数だということに目を向けた。

そこでまずは事務所の入り口にある一番目立つところにライバル会社の製品も含めて、イクラの化粧箱をずらっと並べてみた。

 

 

 

人間不思議な物で沢山の化粧箱が並ぶと、自然にイクラというものに興味が湧くようになっていく。

顕在化したイクラ化粧箱が自分の視野に入り、意識の中でも潜在化することで、「そういえばイクラの加工をうちでも製造するとか話を聞いたぞ」など、社内間で話題が広がるようになっていく。

当たり前だが、口では「こんな会社全然ダメだ」とかボヤくことがあったとしても、自分の会社が伸びようと頑張っていることを嬉しく思わない社員はいない。

誰しもが大なり小なり自社に対しての愛社精神というものを、自社に対するプライドを持っているものだ。

 

イクラの味付けの濃い薄いから始まり、化粧箱のデザインについて、販売の仕方についてまで社内共有することで、彼は後援者を次第に増やしていった。

最終的には一人で売ることには変わりないが、この事業を共有する人が増えることで彼は「販売孤独」という一番辛い状況を克服していくことが出来た。

環境を変えることは出来ないが、環境を変える努力をすることは出来る。

そういった姿勢は一つ彼の中で、大きな成功体験として刻まれていくことになった。