第二十九回 刺身パンは美味しいのか?

さて、ここまでは私自身が「疋田拓也」を彼と表現し、幼少期から築地前編である鮮魚セリ人時代、そして築地後編となる貿易を中心とした商社業務時代についてと話が移り変わってきた。

そこで、日本から魚を輸出するという事を主題に「世界に築地を売りに行く」という観点でお話し、結論そこには大きくわけて課題が2つあると提言した。

1つ目は分かりやすい事で「文化の壁」、2つ目は分かりにくい事ではあるが、「発信者と受信者のアンバランスでミスマッチな関係性」である。

今後この2つに課題に対して、どのように対峙するのかという点について提唱し、疋田拓也としての現在から未来へと話を進めていく。

 

1つ目の課題である「文化の壁」については、まず食文化の違いが大きい。

刺身をパンで食べないように、どれだけ時代が進めど、やはり食においては変わらない根幹の部分がある。

日本に生息する魚は約3800種類、そのうち市場流通する魚種としては約300種類、常に消費者流通する魚種としては約30種類くらいと言われている。

ちなみに世界に生息する魚種は2万5000種類くらいであり、10%以上の魚種が日本近海に生息していると考えると、島国という条件も相まって、有史以来、確かに他国と比べて魚食文化の浸透が起こりやすかったと感じる。

 

また、魚における日本人1人当たりの年間消費量は約50kgで世界でもトップ10(1-5位はキリバスなど島嶼国、ちなみにカナダ・アメリカは20㎏前後)には入っており、変わらずの魚食大国であるが、その食べ方についてはやはり生=刺身=寿司といった調理方法が多いのは特徴的だと感じる。

翻って、日本国内に目を向けても、やはりそこには古くから伝わる食文化というものが根付いており、国土面積としては小国にも関わらず、東西日本において伝統的な魚食文化が見受けられる。

それは調味する味噌や醤油の種類、味付けの濃い薄いという付属的な内容においても通ずることで、「日本の魚食文化」という全体表現として一緒くたに出来ない地域独自性が存在している。

魚を輸出するという観点においても、どの魚をどう発信していくのか迷いと不安が生じてしまい、結局のところ地域の美味しいものというよりは、「日本で売れているもの」=「日本で既にコモディティ化が進んでいる商品」を販売促進してしまう傾向が強いように感じるのは、この為である。

そして、これを受けて考えを改善し、問題点を洗い直した新たな活動が、「世界に築地を売りに行く」であった。