第十六回 自分の立ち位置

イクラの味付けの濃い薄いから始まり、化粧箱のデザインについて、販売の仕方についてまで社内共有することで、彼は後援者を次第に増やしていった。

最終的には一人で売ることには変わりないが、この事業を共有する人が増えることで彼は「販売孤独」という一番辛い状況を克服していくことが出来た。

環境を変えることは出来ないが、環境を変える努力をすることは出来る。

 

イクラを理解し、イクラを販売する上で「販売会社としての意識改革」を進める。

もう一つ彼が「社内施策」として注力した事は「生産工場としての意識改革」である。

すでにイクラ業界という世界には長きに渡る業界的階層が存在していた。

そして、誰しもがそれを疑わず、数十年という単位で商売を続けている。

便宜上の表現ではあるが、トップブランド会社にA-C社、そして2番手のD-F社というような形で布陣されており、彼の会社が買収した会社は2番手に部類されるような立ち位置である。

ここで見誤ってはいけない点として、A社であろうが、F社であろうが使用している魚は「サケ卵」であるという点だ。

そこに塩や醤油で味付けを行い、製品に仕上げていく訳であるが、どうしてそこに1番や2番が生まれるのだろうか。

自然に考えれば、どれも同じイクラである。

味付けが濃い薄いなど以外に、商品力に差が生まれるのだろうか。

 

彼はとにかくサケ卵について研究を進める。

そして、辿り着いた二つの回答として、「①サケ親の生態」「②加工工程の遅速」がある。

平たい表現にすれば、「①自然の影響」と「②人の影響」だ。

導き出された2つの事について彼はとにかく理解を深めていく。

まずはサケ親の生態について理解する為には、サケがどこで産まれ、どこで育ち、どこに帰ってくるのかを理解する必要性がある。

次に加工工程の遅速について理解する為には、サケがどこで漁獲され、どこを流通し、どこで加工されるのかを理解する必要性がある。

そして同時展開として、これからどうやって自分たちのイクラを販売していくのかを改めて考える必要性もある。

分かりやすい目標として考えるのであれば、「2番手としての地位を1番手に上げる為にはどうすればよいのか」という事が頭に浮かぶ。

しかし、彼はその戦術は選ばない。

彼が選んだ施策は、「イクラ業界において新しい市場を創る事」、つまり言い換えるのであれば1番手も2番手も存在しない領域においての先行者利益を得るという事だ。

日本のTV産業や携帯産業をみていても分かるように、画質や通話機能には限度がある。

スペックでの戦いは消耗戦であり、正直ユーザーから考えてみれば過剰不必要な機能も多い。

 

正しい状況及び環境把握により、正しい指針及び方向是正を行う。

どこかにこんな事を取り組んだ人が居るわけでもなく、無秩序に存在する一つ一つの知識やヒントを収集し、それを意味付け、結び付けを行い、仮定からの実践、実践からの確認、結果からの改善、また仮定実践へと移していく。

とにかくこの繰り返しを短期間に何度も行い、それを社内施策として共有した。