第二十二回 常識の定義
当時、会社の方針でイクラ事業を伸ばすという方針の中、それに沿う形で私が北海道モノと海外モノの取扱強化していたわけだ。
では、その転機のきっかけとなるアラスカ出張とはどんなものであったのか。
もう少し紐解いて共有をしたいと思う。
2016年7月、シアトルからアラスカにある中心都市アンカレッジに入る。
アンカレッジからさらに国内線を乗り継ぎ3時間、ブリストルベイにあるキングサーモン空港に到着する。
今回の出張目的は産地視察することでイクラに対する知識を深め、今後のイクラ事業における良い施策を考えることに貢献できるようにすることであった。
日本におけるイクラ事業において、産地といえば北海道や三陸を想像する方も多いと思うが、価格や漁獲の動向により日本ではアラスカ・カナダ・ロシア・ヨーロッパ産のイクラが出回る事も多い。
その中でもアラスカ産は中心となる海外産地であり、ここでの漁獲水準が国内産の相場にも関係してくる。
産地視察で多くの事を感じ、多くの事を見て気が付かされた。
まずはアラスカのサーモン漁師の多くは小型船で操業し、舟に氷を持って行かない。
日本では「生食」という概念が前提にある為、漁獲後すぐに鮮度維持できるように氷処理している。
しかし、元々の北米文化として身は加熱して食べ、卵は食べる事を前提にしていない為、外気温5-10℃であれば特に腐ることはないだろうという考え方であった。
勿論、ここ数十年で世界でも卵は生食、身についても刺身で食べる文化が寿司の貢献により広がった為、全体が変わりつつあるが、やはりパン文化と米文化が完璧に混じり合うことはないように、生食文化と非生食文化は100%混じり合うことはないと感じる。
次に業界では良く知られていることであるが、国産は品質のブレが少なく、海外産は品質のブレが大きいという点である。
前者については北海道であれ、三陸であれ基本的には日帰り操業をしており、その日の朝獲った原料はその日のうちにイクラ製品まで加工される。
では後者ではどうであろうか。
まず考えなければならない事は国土の広さである。
漁獲地から加工場までの距離が数百キロ離れていることも不思議ではなく、漁獲時にしっかり氷充てされていない魚も混じるダンベ(魚倉)が数十時間かけて搬送される。
そして、漁獲が重なり豊漁が続くと、各工場の処理限度を越え、ダンベが翌日処理、翌々日処理と先送りにされていく。
そのようにして加工の日格差が生じ、それが品質差に大きく影響していた。
アラスカでの主要産地を視察すること数十か所。
車やセスナの移動を重ね、色々なことが見えてきた。
そして、サケ魚種中心の漁獲=主要収益をサケ事業で賄っている経営方針の企業がほとんどで生態系多様性をほとんど視野に入れていないと感じた。
サケが居る海には勿論サケ以外も生息しているだろう。
何か面白いことは出来ないであろうか。
何か商機を感じる。
わくわくが止まらなかった。